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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)911号 判決

原告 鳥羽正一

被告 長尾宗一

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し大阪市西区靱中通二丁目三十二番地土地百十四坪八勺に対する、同市同区同丁目大阪市土地区劃整理換地予定地ブロツク第一〇四番、第三号。地積七十九坪三合八勺の地上に存する別紙目録<省略>記載の建物を収去して該土地を明渡すべし。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並びに保証を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として原告は昭和二十三年八月被告に対し原告の所有にかかる大阪市西区靱中通二丁目三十二番地土地百十四坪八勺の内五十坪を物置場に使用するため、地代一ケ月坪当り金八円毎月末払の約定で賃貸し、昭和二十四年二月右土地全部を期間一年間に更新することとして地代一ケ月坪当り金十円の約定で賃貸し、被告は右地上に別紙目録記載のバラツク建倉庫等を建築所有し物置として使用した。地代は昭和二十四年六月一日以降一ケ月坪当り金十六円に昭和二十五年八月一日以降一ケ月坪当り金二十円に増額された。昭和二十六年四月六日大阪復興特別都市計画の施行として大阪市長が右賃貸土地百十四坪八勺に対する換地予定地として請求の趣旨記載のブロツク第一〇四番第三号、地積七十九坪三合八勺を指定通知した。従つて従前賃貸借契約が右換地予定地に更改せられることになつたが、地代其の他契約条件は従前通りであつて被告は依然として百十四坪八勺を原状通り継続して使用収益しつつある。しかるに原告より度々に亘り請求するにも拘らず被告は昭和二十五年八月一日以降昭和二十六年六月末日までの地代の内残額九千百三十六円を支払わないので、原告は昭和二十六年七月三日付書留内容郵便をもつて被告に対し、右書面到達後三日の期間内に右延滞地代の支払を催告し、併せて若し被告が右催告期間内に支払わない場合は、本件土地に対する賃貸借契約を解除する旨の催告ならびに条件付解除の意思表示を発し右書面は同月五日被告に到達したが、被告が右催告期間内に履行しないため右催告期間の満了する同月八日限り右賃貸借契約は解除された。従つて被告は原告に対し原状を回復すべき義務を負うものであるにかかわらずこれを履行しないので茲に被告に対し、本件土地をその地上に存する別紙目録記載の建物を収去して明渡を求めるため本訴に及んだと陳述し、なお原告は昭和二十五年一月被告より一ケ月坪当り金十六円の割合による地代を昭和二十六年一月末日まで一ケ年分前払を受けたのであるが、昭和二十五年二月被告に対し坪当り一ケ月金二十円に増額請求したところ、被告が本件土地を同年八月頃に買受け度い。若し買取ることができないときは八月一日より遡つて原告請求の値上を承諾する旨約した。しかるに被告は同年十月買収を拒んだので売買不調となり、昭和二十六年二月右地代の増額を承諾して同年四月初頃同年二月及び三月分の地代として金五千円を支払つたが、其の余の履行をしない。よつて原告は昭和二十五年八月一日以降昭和二十六年一月末日まで六ケ月間の坪当り値上差額四円の割合による計金二千七百三十六円及び昭和二十六年四月一日以降同年六月末日まで土地百十四坪に対する坪当り金二十円の地代計金六千八百四十円以上延滞金九千五百七十六円より昭和二十六年二月三月分に対する被告の過払金四百四十円を控除した残金九千百三十六円につき被告に対し前示催告を発した次第である。かように地代が既に坪当り一ケ月金二十円に増額変更せられ、且つ被告が従前通り百十四坪の土地を使用するものであるから被告との間に改めて賃料を協定することを約したことがない。尤も原告が原告所有の大阪市西区靱中通二丁目十四番地四十三坪の賃借人訴外平野忠雄との間に同所二丁目三十二番地土地十四坪につき賃貸借契約をしたことは事実であるけれども、右は被告が他日退去命令により板囲を撤去し、換地予定地七十九坪三合八勺のみの使用に制限されるとき右十四番に対する換地の一部を賃貸する旨予め契約したのであつて、原告が同訴外人をして被告の現に使用する土地の一部を使用せしめたものでないから被告の抗弁は何れも理由がないと附陳した。<立証省略>

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として被告が原告主張の土地百十四坪八勺を賃料は原告主張の約定で賃借し、これに原告主張の建物を建築所有したこと、原告主張の日時其の主張の換地予定地の指定通知がなされたこと、約定賃料が原告主張の経過を経て昭和二十四年六月一日以降一ケ月金十六円に値上されたこと及び被告が原告主張通りの催告並びに条件付解除の通知を受領した事実はいづれも認めるけれども、其の余の原告主張事実を否認する。被告は原告に対し昭和二十六年四月末日までの地代を支払い金千七百六十円の過払計算となつた。元来土地区劃整理が本件賃借地に施行せられるに伴い使用土地の範囲及び坪数に変更を来すこととなつたので、原告と交渉の結果原告より賃借土地の境界明示を受けて後、改めて地代値上額を協定する約束の下に昭和二十六年二月以降の賃料の繋ぎとして金五千円を同年四月七日原告に支払つた次第である。しかるに原告は右約旨に反し境界を明示しないばかりでなく、土地区劃整理のために削減せられる土地三十坪三合を訴外平野忠雄外二名に賃貸し、被告をして賃貸借の目的である土地を完全に使用せしめる義務を履行しない。土地区劃整理の結果、賃借土地は三分の一減少したため倉庫改築工事を中止し設計を変更し、他に移動するために基礎工事を施さねばならなくなつたので、使用する坪数は僅かに二、三十坪に足りなくなり、本件賃借地の利用価値は著しく減損した。右事実は明かに原告の賃貸借契約上の債務不履行であつて、被告はこれと同時履行の関係にある賃料債務の履行を拒み得るものである。仮にそうでないとしても被告は換地予定地七十九坪三合八勺に対する約定地代坪当り金十六円の支払義務を負担するものであるのに、原告は被告に不当な地代値上を一方的に要求し、従前の坪数百十四坪に対する坪当り金二十円の割合による地代の支払を請求する過当な催告を最後通牒とするも、右催告は無効でこれを前提とする原告の賃貸借契約解除の意思表示は無効である。被告は右正当な地代額を原告に持参提供するも原告において其の受領を拒絶する意思あることが明かであるから被告は昭和二十六年四月一日以降の右地代を弁済供託したものであるから被告に賃料債務の不履行あることを前提とする原告の本訴請求は失当であると陳述した。<立証省略>

三、理  由

被告が原告主張の日時両度に亘り原告の所有にかかる大阪市西区靱中通二丁目三十二番地土地百十四坪八勺を賃料は原告主張の約定で賃借し、右地上に別紙目録記載の建物を建築所有したこと、原告主張の日時特別都市計画法による土地区劃整理が施行せられ右土地に対する換地予定地として原告主張のブロツク第一〇四番第三号七十九坪三合八勺が指定通知せられたこと及び右従前土地百十四坪八勺の約定賃料が昭和二十四年六月一日以降坪当り金十六円に増額せられたこと並びに原告が昭和二十六年七月五日被告に到達した書面を以て被告に対し右書面到達後三日間に延滞賃料合計金九千百三十六円を支払うべき旨催告し、若し履行しないときは右期間満了と同時に右土地賃貸借契約を解除する旨の催告並びに条件附契約解除の意思表示をしたが、被告が右催告期間を徒過したことはいづれも原告被告間に争いがない。原告は被告の右賃料債務不履行により本件土地賃貸借契約が適法に解除せられた旨主張するに対し、被告は右土地区劃整理の結果賃借土地の使用坪数が三分の一減少し、原告が約旨に反して換地予定地の範囲境界を明示せず、且つ土地の一部を訴外平野忠雄等に賃貸し、被告をして賃貸土地の完全な使用収益をさせる義務を履行しないから被告は同時履行の関係にある賃料債務の履行を拒み得るもので延滞の責がない。仮りにそうでないとしても、原告の催告にかかる地代請求額は被告の支払義務ある一ケ月坪当り金十六円の割合による換地予定地七十九坪三合八勺の地代額を、甚しく超過する過当無効の催告であるから原告の右解除は無効であると抗弁するから其の当否を審究する。成立に争いない甲第一号証、乙第四号証、同第五号証、及び証人小玉茂同平野忠雄の各証並びに原被告各本人訊問の結果、検証の結果を綜合すれば被告が右賃借地百十四坪八勺の地上に倉庫等を建築し、南北に矩形の右土地の周囲を構築した後に前記換地予定地ブロツク一〇四番第三号七十九坪三合八勺が右従前土地百十四坪八勺の土地の東北部に右七十九坪三合八勺の内三十坪余が右板囲の東北側にはみ出て指定せられ原告の所有にかかる靱中通二丁目十四番地七十八坪一勺の一部換地予定地ブロツク第一〇四番第十九号三十坪六合が右板囲内にはみ入り被告の前記換地予定地の西に接して指定せられ、右板囲内の南側一部が道路予定地に編入されたが右換地予定地に建物工作物が存するために別に其の使用開始の日が定められることになつて未だ使用開始の日の指定がなされないため、従前の賃貸借土地百十四坪八勺が原状のままに維持され、被告が右換地予定地の指定がなされて後は板囲内の右指定地四十八坪余の地上にあるバラツク建倉庫のみを使用し、右指定地外に所在する物置二棟を使用せず風雨に、曝され破損するままに放置していることが認定できる。従つてかように従前の土地百十四坪八勺が外形上原状を維持するときでも、既に其の換地予定地が指定通知せられたものである以上、賃借人被告は従前の土地については使用収益権を失い前記認定の板囲内の換地予定地の一部四十八坪余の使用のみを許され、本件土地の換地予定地につき別に使用開始が定められるために被告の被る損害が特別都市計画事業者より補償を受け得るに過ぎないものであつて、被告がこれがために賃貸借の目的を達することができないときは、民法第六百十一条第二項に準拠し、自ら補償請求権を抛棄して賃貸借契約を解除するの外なく、換地処分の結果換地の坪数が従前賃借土地の坪数より減少するも、其の坪数に応じて賃貸人に対し賃料の減額を請求することができないことは同条第一項の反面解釈よりするも疑を容れない。従つて被告が本件賃借土地の換地予定地の一部を現に使用収益するものである以上、原告に対し引続き従前の約定賃料を支払うべき義務あるものといわねばならない。けだし換地処分の結果換地の地積が従前土地のそれより減少するも区劃整理により土地の価格増加し、従前と変りないから坪当り金額を基準として地代額が定められるときでも通常特定の賃貸借の目的である土地に対する使用収益の対価たる総額において何等増減を見るべき理由がないからである。従つて被告は引続き原告に対し換地予定地の通知後においても原告に対し約定地代の全額を支払うべき義務を負うものといわねばならない。

被告は原告が約旨に反し本件土地の換地予定地の範囲及び境界を明示せず、且つ土地の一部を訴外平野忠雄等に賃貸し被告に対し賃貸土地の使用収益を完全にさせる契約上の債務を履行しないから、これと同時履行の関係に立つ地代の支払を拒むことができると抗弁するけれども、被告が換地予定地の関係権利者として事業者に対し土地所有者と同様自己の法律上与へられた権利として換地予定地の範囲の明示を求め得るもので、原告より被告に対し進んでこれを明示すべき義務ないことは特別都市計画法第十四条第二項の規定により明かで、前示乙第四号証及び証人平野忠雄の証言に依れば原告が訴外平野忠雄に対し被告の賃借権の目的でない前示第一〇四番ブロツク第十九号土地を賃貸する旨約したものに過ぎないことが認められるばかりでなく、本件換地予定地につき別に使用開始の日が定められることにより被告の被るべき損失については被告において補償を求め得る権利を有し、原告において被告の本件土地区劃整理により被るべき不利益を除却する契約義務を負うものでないことは自から明かであるから被告の右抗弁は理由がない。しかして原告が被告より昭和二十五年一月に昭和二十六年一月末日まで一ケ年坪当り金十六円の割合による地代の前払を受領し、更に昭和二十六年四月上旬地代として金五千円を支払つたことは原告の認めるところ、原告は被告が昭和二十五年二月予め同年八月一日にさかのぼつて地代を坪当り一ケ月金二十円に増額することを承諾したと主張するけれども、此の点に関する原告本人の供述は信用し難く、他に被告が昭和二十五年七月地代統制から除外された本件倉庫敷地の約定地代坪当り一ケ月金十六円が同年八月一日にさかのぼつて坪当り二十円に増額することを承諾したことを認むべき証拠がない。しかしながら成立に争ない。甲第三号証の一、二、同第六号証、乙第一号証、及び証人鳥羽俊子の証言並びに原告本人の供述を綜合すれば昭和二十六年二月頃被告が原告に対し本件土地の地代を同月一日以降坪当り金二十円に増額することを承諾したことが認定できる。尤も右甲第三号証の一、二、に依れば被告が本件土地につき換地予定地の指定通知がなされて後原告に対し右増額地代の支払を拒む旨告知したことが認められるけれども、換地予定地の指定通知より従前土地につき一旦定められた約定地代の減額を賃貸人に対し請求することのできないことは前示説示するところにより自から明かである。従つて被告の原告に支払つた地代金五千円は一ケ月金二千二百八十円の割合による昭和二十六年二月分三月分の地代に充当せられ残金四百四十円が同年四月分の一部に充てられ、原告が被告に対し前示昭和二十六年七月三日附催告並び解除の通知を発した当時において被告が同年六月末日までに原告に支払うべき地代合計六千四百円を遅滞するものといわねばならない。従つて原告の被告に対してした三日の催告期間を定めて延滞賃料金九千百三十六円の支払を請求する旨の前示催告は、原告の被告に対し正当に請求できる前段認定の金額を超える過当のものであつて、叙上各認定の事情にかんがみるときは被告が従前賃借地の坪数が土地区劃整理のため減少すること等を理由に原告の右催告金額を甚しく過大なものとして右催告期間を徒過したことが必ずしも一概に信義に反するものとして責めることができないばかりでなく、たとい被告が原告に対し自己の正当に支払義務ある前示地代額の履行を提供するも原告において既にこれを受領する意思がなく、徒労に終るであらうことを被告において予見できたことは原被告各本人の供述並び口頭弁論の全趣旨に依り容易に推認できるから最後の通牒である原告の右催告は無効であつて、これを前提とする本件賃貸借契約解除の意思表示も亦効力を生ずるに由ないものといわなければならない。してみれば本件賃貸借契約が有効に解除せられたことを前提とする原告の本訴請求は、爾余の点に関する判断を俟つ迄もなく失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 南新一)

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